●最先端の研究開発を脱毛症治療へ

現在、幹細胞やiSP細胞を使った毛髪再生医療の研究が進展し、毛髪分野における治療法や新薬の会奴が注目されています。
日本で頭皮組織からDSC細胞を採取して培養し、脱毛部位に移植・注入する研究がありました。DSC細胞は、毛髪の成長に重要な役割をする毛乳頭細胞のもとになる細胞で、脱毛してミニチュア化した毛包に補充すると再活性化することができると考えられています。
今ある毛を太くしたり、成長期を長くするといった研究もおこなわれており、そうした再生医療こそ臨床に最も近いといえますね。
ただ、薄毛・抜け毛・ハゲといった脱毛症には様々な病態があります。瘢痕性脱毛症のように、炎症で毛包の構造自体が完全になくなり、毛が無くなっている場合はそのまま再生した毛を植えても炎症でまた脱毛してしまうので、免疫を抑制する措置を取らなければいけません。
まずは、その病気が今どういう状態なのか正確に理解する必要があります。

●iPS細胞による再生医療

2010年から毛髪の再生の研究に取り組み、2013年にはヒトiPS細胞を使った毛包の部分再生に成功しました。iPS細胞からケラチノサイトになる前段階の細胞をつくり、毛乳頭細胞と性質のよく似たマウスの細胞と一緒に育てたところ、毛包と同じような構造をした筒状の組織をつくることができたのです。
こうしたiPS細胞をつかった毛髪の再生は、毛包の構造が完全に失われる瘢痕性脱毛症の方たちへの対策・治療につながる可能性があります。
毛根が傷害をうける円形脱毛症の治療にも活用されるかもしれません。
ISP細胞による毛髪再生医療の対象として、効果的なのではないかといわれているのは女性型脱毛症です。女性型脱毛症は、男性型脱毛症と同じく毛包がミニチュア化します。ただ、毛包が残っているので、その基本構造を生かしてリノベーションすることができます。

●iPS細胞のメリット

出所:「最先端の毛髪再生医療を、いかに臨床で役立てるか」.『やさしくわかる!毛髪医療最前線』.毛髪医療特別取材班.朝日新聞出版. 2018,111p

自家細胞を使う場合、提供部分を取る為に患者は1度体に傷を負います。しかし、各種iPS細胞バンクを使うことが出来れば、患者から自家細胞を採取しなくてもバンクから取り寄せたiPS細胞から目的の細胞を作ることができます。
さらに、iPS細胞バンクのラインナップがある程度充実していれば、待ち時間もなく、同じような細胞をすぐに作れるメリットもあります。また、ヒトiPS細胞から作った毛ではない細胞の塊であっても、治療方法の開発や研究に使う場合は毛の細胞の特性を持っていれば十分活用できます。
 現在、特性を一部維持する方法は開発中であり、特性を失わない培養技術は今も研究中です。毛の構造を作るというこれまでの研究をどの程度ダウングレードすると患者の手の届くものになるのか、これからも研究は続いていくのです。